2019年から東御市御堂地区で「ひかるの畑 (5ha)」にワイン用ブドウの定植を開始した鈴木輝(ひかる)さん。千曲川ワインアカデミー倶楽部では2022年にひかるさんの紹介記事を掲載しました。それから3年の月日が流れ、改めて2025年夏に畑を訪問。ブドウ栽培の中で取り組んでいることや次にリリースするワインについてお話を伺いました。
前回の取材記事はこちら
https://chikumagawa-wine-club.org/story/vol16.html

2019年から東御市御堂地区で「ひかるの畑 (5ha)」にワイン用ブドウの定植を開始した鈴木輝(ひかる)さん。千曲川ワインアカデミー倶楽部では2022年にひかるさんの紹介記事を掲載しました。それから3年の月日が流れ、改めて2025年夏に畑を訪問。ブドウ栽培の中で取り組んでいることや次にリリースするワインについてお話を伺いました。
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土づくりのために取り組んできたこと
ひかるさんは「自然の力を最大限活かした栽培」に取り組んでいるそうです。具体的にどのようなことをしているのかお話を伺いました。
ブドウを植え始める時、「ひかるの畑」は造成されたばかりだったので、土壌のバランスが崩れていて殆んど栄養がなかったそうです。それで、土づくりから取り組むことになりました。土壌改良のためのカバークロップ(※1)としてライ麦を畝間に植えてそれを畑にすき込んだり、クローバーやカラスノエンドウなどの雑草をなるべく残したり、廃菌床(※2)を5haの畑に70tくらい入れました。カラスノエンドウなどのマメ科の植物のなかには空気中の窒素をキャッチして、他の植物が吸収し易いように窒素固定を行ってくれる植物があるそうです。
栄養分が少ない土壌なのでブドウはゆっくりと成長して、少しずつではあるけれど樹が暴れることなく、樹勢をおさえながら栽培できていて、この点はうまくいってるかなと、ひかるさんは丁寧に教えてくださいました。
※1 カバークロップ…緑肥。休閑期(作物を栽培せずに土地を休ませる期間)や栽培時に、畑の空いている場所に栽培される作物のこと。目的は土壌浸食の防止や土壌への有機物の供給。
※2 廃菌床…きのこを栽培したあとの菌床。豊富な栄養素が残っているため、堆肥化して畑に撒くことがあります。
病気になりにくい畑を目指して
ひかるさんは病気になりにくい土壌や畑造りを目指しています。ブドウの樹の下から病気が上がってくるのを防ぐためにフルーツゾーンを高くしたり、ブドウの樹の風通しをよくしたり、初めから病気自体を発生させない状況を作るために、土の中の微生物の力を借りることができるよう意識しながらブドウ栽培に取り組んでいます。
また、定植3年目までは無農薬でブドウを育て、それ以降は益虫や植物の自然の力を利用しながら、農薬を極力使わないような栽培をしています。
人手不足でもできる雨除け・直射日光除け
「ひかるの畑」をこの取材で訪れたのは雨が懸念される7月。周囲の畑では傘かけやレインガードの準備をしている畑も多くありました。しかし、ひかるさんは5haという広大な畑を一人で世話しているため、それらの準備をする時間を捻出するのが難しいそうです。
そこで、ぶどうの房に傘かけをする代わりにできるだけ大きな葉っぱが房の上に被さるように工夫をして作業しています。これは雨だけでなく、直射日光を避けることにもなるので、温暖化対策にも繋がるのではないかとのことです。
多品種栽培でオリジナルの味わいを出したい
「ひかるの畑」では20種類以上の品種を栽培しています。ブドウは同一品種でも結実しますが、りんごや梨、キウイなどの多くの果樹やくるみやヘーゼルナッツなどは同一品種では受粉できず、異なる品種でなければ結実しません。動物にとっても同じことがいえますが、これは自らとできるだけ遠い遺伝子と交わることによって、優位性を取り入れ弱点を補完しながら生きながらえるための植物の生存戦略だそうです。
特にピノ・ノワールは変異しやすい品種。ガメイ、シャルドネ、アリゴテは親がピノ・ノワール、シラーはピノ・ノワールのひ孫だったり、ピノ・グリ、ピノ・ムニエ、ピノ・ブランはピノ・ノワールの枝変わりの品種だったりと、祖先を辿ると実はピノ・ノワールだったということが多い。ピノ・ノワールは変化をしていくような品種なので、他と交わることによって「ひかるの畑」オリジナルの味わいというのが出せたらいいなと、ひかるさんは期待を寄せています。
2024年ヴィンテージリリース作品
2023年は恵まれた年だったため、ブドウの出来が良くかなり美味しいワインになって赤白を発売できたそうです。ひかるさんにこれからリリースするワインについて聞いてみました。
「2024年のワインに関してはブドウがかなり厳しかったということもあって、この間瓶詰したばかりなんですけども、厳しかったブドウが感じられるようなワインになっているのかなと。厳しい年にはそのブドウの状況がわかるような味わいになってしまう。自然な造りでやっているということもあってそういう形になることもあるのですけども、試行錯誤しながらブドウの品質を安定させて、コンスタントに喜んでもらえるようなワインを造れたらなと思っています。今はもう2023年のヴィンテージが売り切れなので、早めに2024年をリリースして販売しようかなと思っています。」
また、東御市と大田区は友好都市として2026年に30周年記念とのこと。そこでひかるさんが大田区のワイナリーにリンゴを提供して、シードルを造るそうです。8月に収穫するリンゴを使用するので、早ければ2025年のうちにシードルは完成し、2026年にリリースされるそうです。
鈴木 輝
大阪生まれペルー育ち(東京が20年以上で一番長い)。千曲川ワインアカデミー3期生。総合商社、投資銀行系の金融機関勤務後、ワイン造りのため東御市に移住。アカデミー、信州うえだファーム、フランスのワイナリーで研修。2019年から東御市御堂地区で5haの「ひかるの畑」に定植を開始。長野県オリジナル品種のりんごのシナノリップやくるみ、ヘーゼルナッツを栽培中。宝くじが当たり次第、ワイナリー設立予定。