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Vol.19 児玉俊一さん、寧さん&ファミリー

4世代で醸すサステナブルな生活とワインづくり
児玉俊一さん、寧さん&ファミリー(東御市)

千曲川ワインアカデミー1期生の児玉俊一さんを前回取材したのは2018年2月でした。
(その時の記事はこちら)。
あれから5年が経ち、「児玉邸」ワインは着実にそのストーリーを膨らませています。

今年5月のイベントパンフレット

2014年からワインづくりに取り組んできた俊一さんにとって大きな転機となったのは2018年10月、息子さんの寧さんとドイツ出身の奥様アネマリーさんファミリーの帰国でした。寧さんはオーストラリアでのパーマカルチャー※な生活を原体験に、北海道ニセコでは循環型農業、更にドイツでもアネマリーさんとともに自然と身近な暮らしを重ねてきました。そんな寧さんが東御で「持続可能な生活とワインづくり」を始めることになったのは自然の流れと言えるのかもしれません。
そんな寧さん家族の価値観を、俊一さんは全面的に受け入れて応援しています。有機・無農薬の米・野菜・ワインぶどう・シャインマスカットなどを栽培する傍ら、薪作りや「児玉家住宅」のリノベーション、更にイベント企画など、取り組みの幅は次々と広がりを見せています。
40年近く空き家の状態が続いた国登録有形文化財「児玉家住宅」でしたが、2014年に俊一さん・恵仁さん夫婦が首都圏からこちらへ移り住んでワインぶどうをつくり始めたのが皮切りとなり、現在は4世代7人がにぎやかに暮らしています。

※パーマカルチャー: パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)を組み合わせた造語。伝統的な農業の知恵を学び、現代の科学的・技術的知識を組み合わせて作り出す「耕された生態系」「永続する文化」をかたちづくる手法。

その歴史を鎌倉時代まで辿ることができる児玉家。明治時代には大規模養蚕業など複数の事業を展開し、現在は背後の児玉山を含む8万坪超の敷地内に800坪の宅地、12棟の建物があります。児玉山を越えた先にはヴィラデストワイナリーがあるという立地です。横浜で定年を迎えた俊一さんがここでワインづくりという第二の人生を始めることになったのは、玉村豊男さんご夫妻との会話がきっかけでした。「母屋の裏にある蚕室をワイナリーにしたらどうか。フランスの古いワイナリーを彷彿とさせて面白い。」児玉家住宅をどうやって守って行こうかと思案に暮れていた俊一さんにこの一言が刺さったのです。

長屋をリノベーションした
カフェスペース

メルローを中心に最近はシャルドネも育ち始めた児玉邸のヴィンヤード。寧さんが栽培に参加した2019年からは有機農法に切り替えました。栽培にはボルドー液と石灰硫黄合剤のみを使用し、醸造は天然酵母としていますが、その道のりは決して順風満帆ではありません。2018年以前、慣行栽培で一反500kgあった収量は、収穫7年目を迎えた2022年100kgまで落ち込んでしまいました。主な原因はベト病。日照時間や降水量などを睨みながらボルドー液の散布タイミングを調節するなど、今年も試行錯誤を重ねています。
寧さんはお米や野菜の栽培とワインづくりを一貫した一つの事業としてとらえています。昨年5月に「児玉家住宅カフェ」をオープンし、同じテロワールで育った素材を使った料理をワインと合わせて味わってもらえるようにしました。

「近隣の人たちとの交流が大切」と考える寧さん。児玉家住宅はいつも門をオープンしており、ご近所さんに限らず様々な人が訪れ、思い思いに楽しんでいます。更に毎週日曜と月曜には「児玉家住宅カフェ」を営業。11時から17時までオリジナルランチ・プレートを楽しめます。料理は主に寧さんが担当ですが、メニューは家族全員が意見を出し合っており、その日に採れた食材がスープや惣菜のプレートを彩ります。児玉邸ワインを目当てに訪れたお客様もオーガニックなマリアージュを楽しんでいます。

〈4月のある日のプレート〉
大豆のファラッフェル
こごみのおひたし
小松菜のおひたし
カブの即席漬け
きのこのあんかけ
フキとウドのかき揚げ
ベビーリーフ

お惣菜を載せているプレートも何だか趣がありますね。お祖父様の一彦さん(現在100歳!)と友人たちによる(趣味の)陶芸作品も使われているのだそうです。

アネマリーさんお手製のドイツ風デザートも好評です。自家製のスペルト小麦や米粉、地元のリンゴやくるみを使ったケーキを、カフェスペースや中庭、時には母屋で有機コーヒーやハーブティーといっしょに味わえます。

〈ドイツ風デザート〉
スペルト小麦と米粉のレモンケーキ

カフェは12棟ある建屋の1つである長屋を活用し、寧さんが廃材を使ってリノベーションしました。

カフェ制作中の寧さん

カフェの営業日には13:30からの「ハウスツアー」が恒例行事となっています。明治26年から43年にかけて建てられた築110年の児玉家住宅を、俊一さんが軽妙な語り口で余すところなく案内してくれます。9メートルに及ぶ一枚板が使われた縁側や隠し部屋、屋内で餅つきをするために天井を変形させたお勝手など、歴史とストーリーが詰まった住宅は驚きの連続です。

アネマリーさんも今、日本の田舎での4世代同居の生活を心から楽しんでいます。高校卒業後に各国を旅する中で特に日本への関心を高め、ドイツの大学では日本について深く学んだそうです。「古い日本の家は、木・土・石といった自然の素材だけでできています。周辺にも中庭にも自然の植物があふれ、毎日違う景色が素敵。ご先祖様のおかげで生活できているのだと感謝しています。」とアネマリーさん。

屋号紋をエチケットにした児玉邸ワイン

児玉家では年間を通じて、蔵や中庭を利用したさまざまなイベントが開催されています。一彦さんや友人の陶芸作品展、Yaeさんや地元の音楽家によるコンサートなど、俊一さんのFacebookページ
https://www.facebook.com/shunichi.kodama.5
から情報を入手できますよ。
現在購入できる児玉邸ワインは、児玉邸メルローの2019年ヴィンテージ、2020年ヴィンテージです。

ECサイトを準備中です。前出のFacebookページでお知らせいたします。
無農薬・不耕起栽培のお米、ボルドー液のみで栽培した“タネ有り“シャインマスカットなども購入できます。

取材日:2023年5月29日

児玉 俊一

千曲川ワインアカデミー1期生。2014年、63歳の時に東御市和の児玉家住宅を拠点としてワインづくりを始める。

児玉 寧

ワーキングホリデーでオーストラリア、ニュージーランドへ、その後北海道ニセコ、ドイツでパーマカルチャーやオーガニックな生活を体験。父親の児玉俊一さんが始めたワイン作りを2019年より引き継いだ。

(取材/文 ココプロジェ 宮下 ゆう子)