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Vol.8 中村 智恵美さん

中村 智恵美さん
中村 智恵美さん

中村智恵美さんは塩尻市の出身。実家がブドウ農家だったため、子供のころから畑を見て育ちました。夫の転勤で須坂市に移り住んだ時、隣町でちょうど立ち上がったばかりの高山村ワインぶどう研究会に入会します。当時はまだ自分がワインぶどうを作ることになるとは考えてもいませんでしたが、なんとなく面白そうだ、という理由だけで入ったそうです。

栽培講習・ワイナリー視察・ワイン試飲会など、生産者と一緒にワインぶどうについて学ぶにつれ、自ら挑戦したい想いが高まり、2010年に夫の実家のある大町市でヴィンヤード「うさうさのプチファーム」を立ち上げます。最初に挑戦した品種はケルナーでした。北海道で主に栽培されている品種であり、標高が高く冷涼な大町市の気候にも適していると考えたからです。

「うさうさのプチファーム」の名前の由来は、江口真代さんのうさぎ彫刻から
「うさうさのプチファーム」の名前の由来は、
江口真代さんのうさぎ彫刻から

ワインづくりを始めたきっかけは、ワイン葡萄そしてワインが好きだったから。
しかし興味深いのはここからです。

農作業をしながら、智恵美さんは「自分はブドウを作って一体何をやりたいのだろうか?」と自問自答しました。「私はワインを売っていきたいのではなく、葡萄を発酵させる工程にとても惹かれている。農家民宿で醸造体験を提供し、多く人とこれを共有したい。」そう気づいて、2016年には千曲川ワインアカデミーに2期生として入学し、本格的にワインづくりを学びます。また農家民宿の開業に向けて、当時すでに使われていなかった夫の実家のリフォームにも着手。ここから個人の夢は、地域のための活動へと繋がりはじめます。

農家民宿のとなりに醸造所を建設する予定
農家民宿のとなりに醸造所を建設する予定

この日本では、農家が免許なくワインをつくることはできません。ワイン醸造体験を提供するためには、地域がハウスワイン特区を取得する必要があります。醸造したワインを民宿以外で販売することはできませんが、特区内での自家醸造が可能になります。これが夢の実現に必要な条件。

そこで智恵美さんは行政へ働きかけ、過去の事例を詳しく調べたり、協力してくれる仲間を集めたりと奔走し、特区取得要望書を提出します。行政担当者とも数回にわたって打ち合わせをするなど、地域活性化のために動き回ります。

大町ケルナーと北天の雫
大町ケルナーと北天の雫

その働きかけが実り、今年3月30日に最低製造量2000リットルの一般的ワイン特区と、最低製造量のないハウスワイン特区が一緒になった「北アルプス・安曇野ワインバレー特区」が誕生しました。農家民宿で醸造体験を提供するための、そして地域活性化への基盤が整った瞬間でした。

現在は「富士の雫」、「北天の雫」という珍しい品種も栽培しています。「富士の雫」は志村富男さん(志村葡萄研究所・山梨県笛吹市)がカベルネソービニヨンとヤマブドウを交配した赤ブドウ品種。「北天の雫」はヤマブドウとリースリングを掛け合わせた白ブドウ品種で、現在はその酸味を活かしてスパークリングワインを醸しています。これら聞きなれない品種を選んだ理由は、日本の家庭で飲みやすい旨みのある味だと直観したことと、自分独自のワインが欲しかったからです。

須坂市:夫の転勤で移住、高山村:高山村ワインぶどう研究会、大町市:うさうさのプチファーム所在地、農家民宿(夫の実家)、東御市:千曲川ワインアカデミー、池田町:ここにもヴィンヤードを構える、安曇野市:大町市、池田町、安曇野市で広域ワイン特区(ハウスワイン特区)、塩尻市:出身地(幼少時代過ごした)

農家民宿に併設された醸造設備を今年中に完成させ、来年度の醸造免許取得を目指します。ハウスワイン特区を活かし、これから醸造体験イベントなどを開催していく予定です。家族的な付き合いの中で多くの人がワイン造りを楽しめる「ハウスワインツーリズムの里づくり」。ワインづくりを通して実現したい、と智恵美さんが考えていたことの、具体的な姿がはっきりと見えはじめたようです。

取材日:2018年5月17日

千曲川ワインアカデミー2期生。2010年にヴィンヤード「うさうさのプチファーム」を立ち上げワインぶどうの栽培を開始。畑を大町市と池田町に構える。栽培品種はケルナー、富士の雫、北天の雫。2017年には農家民宿(大町市)を開業。現在は週末のみ宿泊可能。

(取材/文 アグリマーケティング 田中 良介)

生産者ストーリー動画

うさうさのプチファーム MAP