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Vol.28 藤島 健一さん(後編)

未来を信じて切り拓いた、海辺の畑

耕作放棄地から始まった畑づくり。最初の大きな壁は、広大な土地を一から整備していくことでした。

「最初は私一人でやっていた部分があって。家族も含めてですけど、みんな『お前、大丈夫か?』みたいな感じで見られていたと思います。だけど、少しずつワインができてきたりとか、ブドウができてきたりすることで、いろいろな人たちが応援してくださるようにはなってきたので。」

先の見えない不安の中でも、少しずつブドウが育ち、ワインが形になっていくことで、周囲の理解や応援も広がっていきました。しかし、海に近い土地ならではの厳しい試練も待っていました。

海辺の畑が教えてくれた、自然と向き合う覚悟

2024年5月17日。開花を目前に控えた大切な時期に、日本海から強い風が吹きつけました。最大瞬間風速は26メートル。海からの潮風による影響で、繊細なつぼみが大きな被害を受けたのです。翌日には蕾が全部焼けてしまって、開花せずに枯れていきました。前年の2023年には約3トンの収穫を迎えたものの、2024年は収穫量がほぼゼロに近い状態に。

「そういう年があったおかげで『こうしなきゃいけない』っていう対策も見えてきました。今だから話せるんですけど。その時は本当に絶望的でしたね。」藤島さんは自然の厳しさを受け入れながらその経験を次への学びへと変えていきます。

海のブラン アルバリーニョ
海のブラン アルバリーニョ

海を感じるワイン~その土地の個性を届ける~

2026年6月に完成したワイナリーについて、藤島さんはこう語ります。

「この海を見渡せるような場所につくりたいというのがあって。畑はすごく海に近いのですが、実は畑から海は見えないんです。海と同じレベル(海面と同じ高さ)に畑があるので。海を見渡せるような場所にワイナリーを作って、その環境でできるブドウ、ワインというのを表現したかったので。それがワイナリーを建てるときに一番こだわった部分かなと思います。」

ITAYA Farmでは現在、複数のワインを展開しています。その中でも特徴的な一本が「海のブラン アルバリーニョ」です。アルバリーニョは、華やかな香りと高い酸を持ち、海沿いの産地でも多く栽培される品種。藤島さんは、この土地の環境とアルバリーニョの個性が重なり合うことで、ITAYA Farmらしい味わいが生まれると感じています。

2026年6月に完成したワイナリー
2026年6月に完成したワイナリー

ワインを通じて、誰もが働ける場所へ

藤島さんはこれから、ITAYA Farm & Wineryが地域のワイナリーとして安定した生産体制を築くことを目の前の目標にしています。年間6,000Lの生産を目指し、そのために健全なブドウを育てることに力を注いでいます。そして、その先にある長期的な夢について藤島さんはこう語ります。

「ゆくゆくはいろいろな人たちがここに、働くということを通して携わっていただきたい。そこまで成長させていくっていうのが一つの長期的な目標かなと思います。」

藤島さんにとって、ワイン造りは単に農業や製造業を始めることではありません。ブドウを育て、ワインを造り、販売するという一連の仕事の中に、さまざまな人が関わる余地があると考えています。畑には、季節ごとの作業や役割があり、それぞれの得意なことを生かせる場があります。

ワインという形ある商品を通じて、地域の中に新しい働き方を生み出すこと。それがITAYA Farm & Wineryが目指す未来です。そこには、ワインを通じて土地の魅力を伝えながら、地域の中に新たな価値を育てていきたいという藤島さんの願いがあります。

海辺の耕作放棄地から始まった挑戦は、今では少しずつ人をつなぎ、地域を動かし始めています。ワイナリーの歩みはまだ始まったばかりです。この土地だからこそ生まれるワインと、その先にある未来は、これからさらに大きく育っていくことでしょう。

ITAYA Farm & Winery
・ウェブサイト:https://itayafarm.jp/
・Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100064331131778
・Instagram:https://www.instagram.com/itaya_farm/

藤島 健一(ふじしま けんいち)

千曲川ワインアカデミー8期生。ITAYA Farm & Winery(石川県羽咋市)代表。精神科病院で作業療法士として勤務した後、障がいのある方の就労支援事業を立ち上げる。2020年に耕作放棄地を開墾してブドウ栽培を開始し、2026年にワイナリーを開設。日本海まで約200mという海辺のテロワールを生かしたワイン造りと、農福連携による誰もが働ける場づくりに取り組んでいる。

日本ワインなび主宰/レコール・デュ・ヴァン講師 田口あきこ
(取材/文 日本ワインなび主宰/レコール・デュ・ヴァン講師 田口あきこ)