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Vol.28 藤島 健一さん(前編)

石川県羽咋市。日本海までわずか200mという場所に、海風を受けながらブドウを育てるワイナリー「ITAYA Farm & Winery」があります。このワイナリーを立ち上げたのは、もともと作業療法士として病院に勤務していた藤島健一さん。藤島さんは羽咋市で古くから続く家系の17代目。江戸時代についた昔の家号が「板屋」であったことから一世一代の思いでつくった農園に“イタヤファーム”と名付けました。ワイン造りを始めた原点は、障がいのある人たちが自分らしく働き、生き生きと暮らせる場所をつくりたいという、一人の支援者としての想いでした。

イタヤファームの碇のロゴから、ワイナリー完成を機に「帆」へ刷新。これまでの基礎を大切にしながら、千里浜の潮風を受けて前進していくという思いが込められています。
イタヤファームの碇のロゴから、
ワイナリー完成を機に「帆」へ刷新。
これまでの基礎を大切にしながら、
千里浜の潮風を受けて前進していく
という思いが込められています。

作業療法士として見つめた「働く」という力

藤島さんは精神科病院で作業療法士として勤務し、精神障がいや知的障がい、発達障がいのある方々のリハビリテーションに長年携わってきました。日々利用者と向き合う中で実感したのは、「働くこと」は生活のためだけではないということです。
「『働く』っていうのがやっぱりすごく大事なリハビリになるなと思っていて。」
その思いから35歳で病院を退職し、障がいのある方の就労支援事業を立ち上げます。働きたいという思いを持つ人たちを支える仕事には大きなやりがいがありました。しかし同時に、現場では一つの大きな壁にも直面します。

それは、「働くこと」と「稼ぐこと」は別の問題だという現実でした。
「どうやったら障がいのある方たちが付加価値を生み出し、きちんと稼げる仕事になるのか。そのことをずっと考えていました。」

支援だけでは解決できない課題。その答えを探し続ける中で、一つのワイナリーとの出会いが藤島さんの人生を大きく変えることになります。

  

一つのワイナリーとの出会いが人生を変えた

藤島さんが何度も足を運んだのが、障がいのある方々が働くことで知られる栃木県のCOCO Farm & Wineryでした。そこで目にしたのは、それぞれが自分の個性を生かしながら誇りを持って働く姿でした。

「障がい者の方が自分の障がいというものを逆に強みにしたり、生かしたりしながらそこで働き過ごしているという環境を見たときに、こういう世界を地元でも作りたいなという風に思ったのが一番最初のきっかけです。」

単なる福祉施設ではなく、価値ある商品を生み出し、地域に認められる仕事をつくる。その考え方に深く共感した藤島さんは、「自分の地域でも同じような挑戦をしたい」と考えるようになります。そして2020年、新型コロナウイルスの感染拡大という社会が大きく揺れ動く中、決断の時が訪れます。

「これからコロナが来た時に、今まで通りの世界にはなっていかないだろうなと思ったし、トライするなら今しかない。」

という思いから、2020年に耕作放棄地を開墾するに至りました。選んだ場所は、長く耕作放棄地となっていた土地でした。自ら開墾を始め、一からブドウ畑をつくるという挑戦がスタートします。

  

海から200m~この土地だから生まれる個性~

現在、ITAYA Farm & Wineryが管理する畑は約3ha。そのうち約2.5haが自社畑で、残りは食用デラウェアの管理を行っています。栽培するのはシャルドネ、アルバリーニョ、ヤマ・ソーヴィニヨン、マスカット・ベーリーA、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ムールヴェードルなど多彩な品種です。

この畑の最大の特徴は、日本海までわずか約200mという立地です。海に近い環境は、ブドウ栽培にとって決して容易な条件ではありません。強い風や潮風の影響を受けやすく、病害や塩害への対策も必要になります。また、砂地の土壌は水はけが非常に良いため、乾燥しやすく、必要に応じて灌漑を行いながらブドウの健全な生育を支えています。

それでも藤島さんは、この厳しい環境こそが、この土地ならではの個性を生み出すと考えています。海から吹く風、砂地の土壌、そして羽咋という土地の気候。その一つひとつがブドウの成長に影響し、ワインの味わいにつながっていきます。特にアルバリーニョは、海沿いの産地でも多く栽培される品種で、この土地との相性の良さを感じている品種の一つです。

ITAYA Farm & Winery
・ウェブサイト:https://itayafarm.jp/
・Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100064331131778
・Instagram:https://www.instagram.com/itaya_farm/

藤島 健一(ふじしま けんいち)

千曲川ワインアカデミー8期生。ITAYA Farm & Winery(石川県羽咋市)代表。精神科病院で作業療法士として勤務した後、障がいのある方の就労支援事業を立ち上げる。2020年に耕作放棄地を開墾してブドウ栽培を開始し、2026年にワイナリーを開設。日本海まで約200mという海辺のテロワールを生かしたワイン造りと、農福連携による誰もが働ける場づくりに取り組んでいる。

日本ワインなび主宰/レコール・デュ・ヴァン講師 田口あきこ
(取材/文 日本ワインなび主宰/レコール・デュ・ヴァン講師 田口あきこ)