千曲川ワインアカデミーはこれまでに多くのワイン生産者を輩出しています。
今回はそのうちの一人、太田 匠さんを紹介します。
Vol.24 太田 匠さん(前編)

果樹園を始めた理由
太田さんは長野大学を卒業後、就職活動に勤しんでいた。そして全ての筆記試験に合格し、全ての面接に落ちるという苦い経験を味わうことになる。
「私は面接でいっぱいおしゃべりして、よし、楽しく話せたなって思って帰ってくると大体落ちているという生活をしていました。」と、太田さんは当時を振り返って笑う。
太田さんは相手に物事を正確に伝えようとする方なので、限られた面接の時間にはそれがフィットしなかったのかもしれない。しかし人間万事塞翁が馬、そのおかげで果樹園の世界に導かれたともいえる。
その後、就職浪人時代に千曲川ワインアカデミー1期生の募集を目にした。彼はこだわりが強いので、東京の会社でサラリーマンになるより、「そういう生き方もありかな」と思ったという。
長期戦を得意とする性格
果樹は1年に1回しか収穫がない、つまり収入源が1年に1回である。しかも定植して3年~5年目から収穫し始めるくらいのスパンの長期戦。サラリーマンの方たちにとっては信じられない話だろう。
しかし、太田さんには昔から得意な戦い方があり、それは「しっかりと準備をして臨む長期戦」だという。つまり果樹園の仕事は彼の力を発揮しやすいフィールドということになる。

型を反復する生き方
太田さんは全国の秀才が集結することで有名な開成中学校・高等学校の出身。やりたい部活がないということを理由に、自身で弓道同好会(弓道部の前身)を立ち上げ、自分の戦い方を身に着けた。
剣道や柔道とは違って、弓道は的の前に入って同じ動きをして引くたった1種類の動作しかない。その「型を反復する」という考え方・生き方を太田さんはとても大事だと思っている。
例えば引越屋さんが腰を痛めずに重いものを運べる理由は、筋肉があるからではない。どこに重心を捉えて持てば腰を痛めずに運べるかということを知っているから、持っていける。
「これは弓道の考えと近いなって私は思っていて、『準備100%、アドリブなんかしない』という考えが好きなので。そういう意味で言うと、果樹って私にとっては非常に相性が良くて。」と、太田さんは意気揚々と語る。

太田さんは自信に満ちた顔で語る。
皮や種まで完成させた香りにこだわる
さて、太田さんに果樹栽培に対するこだわりを聞いてみたところ、香りに重きを置いていることが分かった。特にワインを飲んで体内で熱されたものが喉から上がってきて、鼻腔に入って感じる時の香りをとても大切にしている。
「小粒で皮が肉厚で香りがして、種を割った時に芳醇なナッツみたいないい香りがしなかったら、もうそれは私のブドウじゃない。バルダー果樹園の名は付けない。それぐらいのこだわりを持ってやっております。」
また、ブドウだけでなく太田さんの作るリンゴも皮が厚く、種を割ったら良い香りがするという。皮や種まで完成されたリンゴから、彼は赤ワインのように皮や種を一緒に醸してシードルを造っている。
バルダー果樹園
・ウェブサイト:https://balder.base.shop
・YouTube:https://www.youtube.com/@BalderOrchard
太田 匠(おおた たくみ)
千曲川ワインアカデミー1期生。東京都で生まれ育ち、その後長野県に移住。ワイン用ブドウ園(上田市)とシードル用リンゴ園(東御市)を運営。「最大最強の香り」を持つワイン、シードルを生み出そうと日々農業に従事している。