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Vol.20 窪内 靖治さん

テロワールを映すワインで高知を元気にする!
「よさ来いワイナリー」窪内靖治さん(高知市)

なぜ高知でワイン?

南国高知に今年、一つの都市型ワイナリーが誕生します。よさ来いワイナリー窪内靖治さんに、まず素朴な疑問を投げかけてみました。

圃場で作業する窪内靖治さん
(圃場で作業する窪内靖治さん)

Q. 高知市でのワイン浸透度はどうですか?
A. 窪内さん「今のところ全然ないですね。みんな日本酒が好きです」
Q. ぶどう畑の標高はどのくらいですか?
A. 窪内さん「標高はほとんどないですが、私自身は標高とかあまり気にしていません(笑)」
Q. 高知の気候はワインづくりに適しているのですか?
A. 窪内さん「雨が多く高温多湿、台風銀座と言われるほど台風も多い地域です」

いきなり絶望的とも思える回答が続きました。しかしここからが窪内さんのワインづくりの真骨頂でした。高知も他の地方と同様、人口減少、少子高齢化、経済停滞が課題となっています。「高知らしいワインをつくって、高知を元気にしたい。」窪内さんのワインづくりのモチベーションの源泉は厳しい現状の高知を元気にすることだと言うのです。「仮に高知以外の土地で、美味しいと絶賛されるようなワインを作っても、それは自分にとって魅力的なワインとは言えません。」さらに「高知にもこれまでに栽培されてきた生食ぶどうがあります。美味しいぶどうができるなら、美味しいワインを作ることもできるだろう。他の土地と同じワインではなく、高知のテロワールを反映した他にないワインができるはず。」「そもそもワインはぶどうだけでできています。ぶどうの糖分はアルコールになってしまう。したがって糖分以外のぶどうの特徴がワインの特徴になります。すなわち最も地元の風土が反映される生産物ですから、ここ高知のテロワールからここにしかないワインができるはずです。」と窪内さんは言います。

窪内さんは、大学で地元を離れてから改めて高知の良さを実感、老後は高知で大好きなワイン作りをして、できたワインを飲みながらのんびり暮らしたいと将来を漠然と描いていました。東京でIT企業の代表を務めながら2019年に千曲川ワインアカデミー5期生としてワインづくりを学んだことでワインづくりに本気になり、2020年にワイン用ぶどうの定植を始めました。メルロー、シャルドネ、プチマンサン、山幸、マスカットベリーA、小公子(山葡萄)などのワイン用ぶどうでした。
そんな窪内さんがその後「生食用ぶどうのワインをつくって高知を元気にする」と言い切るようになりました。そのきっかけはワインぶどうの栽培を始めた2020年の年末の頃、9反歩(約90アール)の生食用ぶどうの畑を引き継いで欲しいという、南国市の古い農家さんからの話でした。家族と相談し引き受けることを決め、2021年からぶどう作りをスタート、8月には初収穫、9月に初の委託醸造をしました。生食用ぶどうのワインの可能性については、アカデミーの仲間と東御市で飲んだ時の印象が記憶にありました。さっぱりしていて美味しく、ごはんの邪魔をしない。アルコール度数が9~10%と低めなので飲みやすいと感じていました。

さて、窪内さんのチャレンジは以下の2つに集約されています。「テロワールを最大限に生かしたぶどう作り」と「自家醸造できるワイナリーを早期に設立すること」です。

テロワールを最大限に生かしたぶどう作り

テロワールを最大限に活かす窪内流のチャレンジが「自然農法」です。テロワールの特徴を引き出すためには、できるだけ自然に近い土が必要。化学農薬や肥料はできるだけ使用せず、その代わりに土や草木、そこに集まる生物・微生物の力を借りて行います。有機農薬や有機肥料もテロワールを変えてしまうため、「有機栽培」ではなく「自然農法」を行うことにしたそうです。
窪内流「自然農法」の主なポイントは、早生栽培、雨除け屋根、種なし処理を行わない、無施肥、不耕起、化学農薬不使用。可能な限りテロワールの特徴を消さないことにこだわります。必要に応じて石灰や酢酸などの有機系農薬を使います。
試行錯誤の様子はホームページのブログで詳しく紹介されています。
https://yosakoi-winery.com/blog-2/

左から:2022サマークィーン泡/2022雄宝/2022藤稔
(左から:2022サマークィーン泡/2022雄宝/2022藤稔)

2021年の収穫から引き継いだ畑の生食用ぶどうを使ったワインが、昨年末に初リリースとなりました。12月に2021サマークイーン泡、2021藤稔(ふじみのり)泡をリリース。更に2021ブラックビート&藤稔の混醸、オレンジワインの2021雄宝もリリースしました。
2022ヴィンテージも同じラインナップです。その中で2022藤稔は第9回SAKURA AWARD2022でシルバー賞を受賞しました。

※SAKURA AWARDは田辺由美氏が主催する女性審査員によるワインコンテスト。品種ごとの審査で産地、生産者、価格は伏せられて審査される。コンテストの目的は日本の食卓に合うワインを探すお手伝いをする、ワイン市場の活性化に貢献する、ワイン業界で働く女性の活躍の場を広げるの3つのゴールを掲げている。

クラウドファンディングは2023年7月24日に801万円を達成
(クラウドファンディングは2023年7月24日に801万円を達成)

早期のワイナリー設立

早期のワイナリー設立に関しては、前職での経験が生かされています。窪内さんは東京のITコンサルティング会社に勤務し、会社がスポンサーをするサッカーチーム、高知ユナイテッドSCの運営に携わります。サッカーで地元を盛り上げたいという思いからでした。
ITコンサルティングの仕事でBtoB(対企業戦略)を経験し、サッカークラブの運営からBtoC(対ファンのノウハウや集客)を学び、現在のワイナリー経営に役立てています。委託醸造では資金が続かない、醸造も10,000本なければ採算が合わないと計算した窪内さんは、早い段階からワイナリー設立を検討し、今年完成&醸造開始を予定しています。資金集めの手段としてクラウドファンディングを2023年5月にスタートしました。

醸造用タンク等の購入のために300万円を募集したところ、2日間で早々に達成、また醸造設備などのためのセカンドゴール600万円も6月初めに達成、今年7月24日に終了したサードゴールでは800万円を超える資金が155名の方から集まりました。
「仕事を一生懸命やってきて、人とのご縁も大切にしてきた、その賜物としてこのような支援につながった」と窪内さんは言います。

クラウドファンディングのリンク:
https://readyfor.jp/projects/yosakoi-winery-2nd?sns_share_token=

ワイナリー内に設置された醸造用タンク
(ワイナリー内に設置された醸造用タンク)

高知を元気にする

初リリースした2021年12月に試飲会を開催するなど、プロモーションも積極的に開催しています。今年5月に開催した2回目となる苗木オーナー対象の圃場ツアー&ワイン会は50名が参加、また5月末に東京で開催した「四国ワイナリー大集合」には、井上ワイナリー(高知)、224ワイナリー(香川小豆島)、Natan葡萄酒醸造所(徳島)、大三島みんなのワイナリー(愛媛)などのワインが出品されました。お客さまから「ワインがそれぞれ違うからめちゃくちゃ面白い」などと感想が出るなど盛会でした。
7月には安蔵弘光さんの半生を描いた映画「シグナチャー」上映会&ワイン会を、高知市内で井上ワイナリーと一緒に企画、安蔵さん夫妻も参加してメルシャン、井上ワイナリー、よさ来いワイナリーのワインを楽しむ会となりました。

今、高知市内の繁華街で都市型ワイナリーの準備が続いています。7月にはリノベーションが完成し、タンクをはじめとする醸造機器の設置が終わりました。今秋からワインの醸造を開始、来年2024年2月に自社ワイナリーとしての初リリースとなります。

窪内さんが運営に携わった高知ユナイテッドSC
(窪内さんが運営に携わった高知ユナイテッドSC)

窪内さんの目標はワイナリーを10軒作って高知をワインの銘醸地にすること、そしてワインで高知を元気にすることです。地元愛に根ざしたワインづくりの「熱さ」が言葉からも文章からも活動からも伝わってきます。都会にあって高知にないものはたくさんあるけれど、それ以上にあるたくさんの資源と元気な人々と一緒に窪内さんの挑戦は続いていきます。

ワイナリー所在地:〒780-8015 高知市百石町1-10-20
お問合せ:TEL 080-4034-8462
リンク:https://yosakoi-winery.com
ショップ:https://yosakoi-winery.myshopify.com

取材日:2023年7月20日

窪内 靖治

昭和54年高知県生まれ。ITコンサルティング・サッカーチーム経営に携わり、2019年5期生として千曲川ワインアカデミーで学ぶ。2020年から地元高知でぶどう栽培を開始。2023年ワイナリー設立予定。

(取材/文 ココプロジェ 宮下 ゆう子)