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Vol.18 織田 徹さん

急逝した創業者から事業を承継・・・「受け継いだもの」と「受け継げないもの」
「ドメーヌ・フジタ」織田徹さん(小諸市)

アカデミー先輩の圃場で収穫作業中の織田さん

小諸市糠地地区で2軒目のワイナリー、ドメーヌ・フジタは2021年秋に完成し、初仕込みを済ませました。ところがその翌年6月に創業者の藤田正人さんが急逝。同ワイナリーの研修生でもあった千曲川ワインアカデミー(以下アカデミー)7期生の織田徹さんが事業を引き継ぐことになりました。
藤田さんにとって最初で最後の自社醸造となった2021ヴィンテージ(VT)は、今年(2023年)の3~4月にリリースを予定しています。

【トヨタの海外展開担当からワインづくり】
織田さんは今年62歳。海外への事業展開を得意とする経営コンサルティング会社を経営しています。以前はトヨタ自動車株式会社で25年間勤務。主に海外販売や海外への工場進出に携わっていました。その後ITや医療、物流の会社を経て独立し、中小企業の海外進出や海外への販路開拓をサポートしています。
ワインづくりを始めたきっかけは?とお尋ねすると「ワインありきという訳ではなかったのです」とのお答え。「大自然のなかで農業をやりたい」「好きなお酒を作ってみたい」といった夢を温めていた中でワインづくりと巡り合ったのだそうです。

ワインづくりの「農作業仲間」と一年の苦労を振り返った忘年会
右端が織田さん

【農作業に参加する仲間を増やしたい】
織田さんは今、一緒に農作業をしてくれる仲間を募ろうとしています。農作業に興味がある老若男女。そして自ら汗を流して作ったぶどうから出来たワインを共に楽しみながら語り合う。そんな仲間たちと一緒にワインのある人生を楽しんでいきたいと言います。
「一回限りの体験ではなく、継続的に農作業に参加し、その過程を楽しんでほしいです。体を動かし、汗を流して作業をする中で、キジやトンビ、ホトトギスなどの鳥や、鹿やタヌキなどの動物の存在を近くに感じる。辺りを見回せば、山々に囲まれた雄大な景色がある。そういう時間を共有したい。」
ワインぶどうの栽培は、植栽から剪定、消毒、草刈り、誘引、袋掛け・・・収穫に至るまでのにも数多くのプロセスがあります。収穫してからも手除梗、プレス、ビン詰め、ラベル貼り、「そうして完成したワインをいっしょに楽しめたら最高です」と織田さんは言います。
現在は地元の小諸・東御、そして東京、神奈川、愛知から足を運んでくれる仲間も合わせて8人が織田さんのワインづくりに参加しています。

藤田正人さんが全国を探しまわって
ついに出会うことができたヴィンヤードの景色

【受け継いだもの、受け継げないもの】
受け継いだもの ①:ヴィンヤード
創業者の藤田正人さんが思わず「Destiny! ここだ!」と叫んだ小諸市糠地地区。360°山と緑に囲まれた4つの圃場は合計約1.1ha。標高840~900m、年間降水量1,000mm、陽当たりに恵まれた栽培適地にピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランが植えられています。藤田さんが初期に植えたぶどうは今年で樹齢8年。充実した収穫が期待できます。

2021年に完成したワイナリー

受け継いだもの ②:ワイナリー
藤田さんの時代(2021年秋)に自社ワイナリーで初仕込みしたヴィンテージは、いよいよ今年の3~4月にリリース予定。
一方、2022年秋に織田さんが収穫したぶどうは、同じ糠地にワイナリーを構えるアカデミー2期生の池田さんのテールドシエルに委託し、醸造責任者の桒原さんが天然酵母を使って醸造しました。もちろん自社ワイナリーでも醸造資格はありましたが、醸造は未経験だったため「単独での醸造となると若干の不安があり、今回は試験醸造にとどめた」と織田さんは振り返ります。今年の収穫2023VTは自社ワイナリーでの醸造を予定しています。

受け継いだもの ③:ワインへの想い
「自分自身は今後どのようなワインをつくっていきたいのか、今まさに模索しています」と言う織田さん。まずは藤田さんが目指していたブルゴーニュ的なワインづくりを踏襲します。ブルゴーニュ地方ではテロワールを重視し、畑ごとに単一品種で、手除梗などできる限り昔ながらの丁寧なワインづくりが行われています。実は「ドメーヌ」というのも、「ブルゴーニュ地方のぶどう栽培から醸造までを行う小規模生産者」のことなのです。

受け継いだもの ④:ワイン
今年3~4月リリース予定のラインナップは以下の4種です。
Gettaピノ・ノワール(樽仕込み)2021
井子シャルドネ(樽仕込み)2021
井子シャルドネ2021
清水端ソーヴィニヨン・ブラン2021

藤田さんとしての初リリースだった2019VT、マザーバインズ(高山村)と一部テールドシエルに醸造委託した2020VT、初めて自社醸造した2021VT、それぞれのストーリーを味わうのも面白そうです。在庫の状況についてはメールでお問合せください。現在取り扱いのある酒販店は、小諸なる小宮山酒店と東御ワインチャペルです。

受け継げないもの:
「ぶどうづくり、ワインづくりの経験と藤田さんが構築してきた人間関係の2つは受け継ぐのが難しい」とのこと。「例えば、藤田さんが自らワインボトルをリュックに入れて足を運び、試飲をしてもらって開拓した東京や軽井沢の酒販店やレストランから自然と注文が来るといったことは期待できません」と織田さん。今後、それらの店を回って現状や今後の取り組みを改めて説明し、考え方や価値観を理解してもらった上での販売再開を目指すとともに、通販での直販も手掛けたいとのことです。
ワインづくりを始めていきなり販売が重要な仕事となった織田さん。「まずは藤田さんが精魂込めて作ったワインを大切に届けていきたい。」と言います。通常は何年もかけてコツコツと積み上げていける経験を、突然の事業承継によって短期間でキャッチアップする必要に迫られた織田さんならではの試練がそこにはあります。

ぶどう畑の中で成った柿でつくったお手製の干し柿
作る過程を楽しんでいます

【アカデミーの仲間】
他の生産者とは異なる形でスタートを切った織田さんですが、アカデミーの同期生や先輩の存在は心強いとのこと。農作業仲間になってくれた同期生や、ぶどう栽培やワイン醸造、販路開拓などについていろいろ助けてくれる先輩もいます。同期の仲間とは現在でも定期的にネットなどで情報共有しているほか、お互いに畑の作業を助け合ったりしています。

農作業仲間が作ってくれた、
織田さんのドメーヌ・フジタのパンフレット

現在は2021ヴィンテージリリースの準備と並行で、ぶどう樹の剪定など畑の作業も目白押しです。結構大変です、と言いながらも農業に携わる喜びが織田さんの穏やかな語り口から感じられました。

ドメーヌ・フジタWebサイト:http://www.nukajiggfarm.com
メール:domainefujita@gmail.com

取材日:2023年1月27日

織田 徹

名古屋市出身1960年生まれ、千曲川ワインアカデミー7期生。トヨタ自動車株式会社で25年勤務、主に海外進出の販路開拓の仕事に携わる。2021年12月からドメーヌ・フジタで研修。2022年藤田さんより事業承継。

(取材/文 ココプロジェ 宮下 ゆう子)