生産者ストーリー

  1. トップ
  2. 生産者ストーリー
  3. Vol.15 中川 裕次さん 櫻山 記子さん

Vol.15 中川 裕次さん 櫻山 記子さん

赤ワイン用ぶどうの銘醸産地と言われる上田市東山地区。ヴェレゾン・ノート(Veraison-Note)の中川裕次さんと櫻山記子さんは、カベルネ・ソーヴィニヨンと、日本では珍しいぶどう品種であるネッビオーロを軸に、この土地ならではの長熟の赤ワインづくりを目指しています。2018年の初リリース以来、オリジナリティの高いワインを次々とリリースしてきました。

東京出身の2人に共通する好みは音楽とイタリアワイン。それ故、これまでにリリースしたワインのエチケットは音楽に由来した命名とデザインであり独特の味わいが評判のワインに花を添えています。

東山圃場
東山圃場

例えば、看板ワインの「Experience」はジミー・ヘンドリックスのバンド名、「PRESENCE」はレッド・ツェッペリンのアルバム名です。地元のリンゴに陰干ししたカベルネ・ソーヴィニヨンを加えたクラフトサイダー「The Ringo Star」は言わずと知れたビートルズ由来の名前ですね。印刷・デザイン関係の仕事をしていた櫻山記子さんがプロデュースするエチケットもまた魅力的です。

オーナーの中川裕次さんはスキーと山とりんごが好きすぎて、それらすべてがそろう上田にセカンドハウスを建てたのがおよそ25年前。当時は東京との二拠点生活でした。その後イタリアワインのバローロに心を奪われた(!)中川さんは東山でワインぶどうを自ら栽培することを決意。2014年に開墾をスタート、2015年には定植をはじめ、翌2016年に千曲川ワインアカデミーを2期生として受講しました。

櫻山さんが中川さんのワインづくりに合流したのは初収穫の2017年。もともとワイン好きでワインエキスパートの資格を取得していましたが、アルカンヴィーニュの立ち上げ時に事務局の仕事を得て、東京から東御市に移住しました。アカデミーでワインの作り手を目指す人たちの熱意に感化され、「自分も作り手になりたい」「カベルネ・ソーヴィニヨンが熟す東山でワインを作りたい」と考えるようになり、中川さんとのワインづくりが始まりました。

日本ワインコンクール2022で金賞を受賞したマンズワインのソラリスに使われているカベルネ・ソーヴィニヨンが1994 年から栽培されている東山地区。今では「赤ワイン用ぶどうの銘醸産地」と呼ばれています。2000万年前から500万年前まで海底だったこの地域一帯が地殻変動によって隆起した結果、ミネラルが豊富で粘土質、肥沃な上に雨が少ないテロワール、すなわちワインぶどうの栽培に適した土地となりました。
ヴェレゾンノートが目指すワインにとって最適地と言える東山で栽培ができる幸運に加えて、地元の農家さんやJAなど多くの方々の力添えにも支えられているとのこと。

栽培が難しいと言われるネッビオーロですが、これまでに1300本を定植しています。カベルネ・ソーヴィニヨンが育ち、シラーもおいしく飲めることから、この土地の可能性を感じてネッビオーロの栽培にもチャレンジしたそうです。イタリアワインの代表格であり、ワインの王様と呼ばれるバローロにも使われているネッビオーロで長熟のワインを作ることが中川さんたちの目標です。

中川さんたちは東山の他、近郊の前山地区と生田地区にも圃場を広げています。このうち生田圃場は試験圃場の位置付けとして、サンジョベーゼ、カベルネ・フラン、ピノ・グリ、バルベーラなども栽培しています。

ヴェレゾンノートの看板ワインとなった「Experience」はネッビオーロとカベルネ・ソーヴィニヨンの混醸。この組み合わせはかなり独特だそうで、有名ワインジャーナリストのジェイミーグッド氏から「クレイジーだけど素晴らしい」と高評価を受けたことが2人の自慢です。

生田圃場1 生田圃場2
生田圃場

ヴェレゾンノートの主なラインナップは以下の通りです(2022年8月現在):
〈ネッビオーロ+カベルネ・ソーヴィニヨンベース〉
Experience 2017→2018→2019→2020
Experience 2020 Janisカベルネ・フランをプラス(今年3月リリース済)

〈カベルネ・ソーヴィニヨン100%〉
PRESENCE2018 東山カベルネ・ソーヴィニヨン100%(完売)
Veraison Note カベルネ・ソーヴィニヨン2019Premium(完売)
Veraison Note カベルネ・ソーヴィニヨン2020 Barrelフレンチオークで9ヶ月、瓶内熟成一年以上(2022冬リリース予定)
Veraison Note カベルネ・ソーヴィニヨン2020 ステンレス(2022 冬リリース予定)
瓶内熟成 15か月以上

〈クラフトサイダー〉
RINGO STAR2021(今年3月リリース済)
その他、ピノ・グリを醸してピノ・ノワールをプラスしたオレンジワインを年内に少量(約60本)、更に、新しい味わいへの挑戦として、サンジョベーゼにカベルネ・フランをプラスしたロゼを約200本リリースする予定です。

ヴェレゾンノートでは手間を惜しまず、自然であることを大切にした有機農法とナチュラルなワインづくりを実践しています。それは同時に自然との闘いでもあります。化学肥料、除草剤、殺虫剤を使わないため虫害も深刻で、一昨年はカイガラムシの被害がひどく、対策としてぶどうの樹の皮をすべて剥ぎ、落ち葉もすべて集めて燃やすなど、多くの時間を費やしました。
ハクビシンによる獣害で生田圃場のピノ・ノワールが全滅するという被害も経験しました。今は電柵を圃場の外側だけでなく、1列ずつ張り巡らせています。圃場によって獣害も病気も違うため、各々の対策を講じる苦労もあるそうです。

2020年からはテールドシエルとツイヂラボに醸造を委託。「すべてナチュラルであり、やりたい方向になってきました」と櫻山さん。
中川さんは「ネッビオーロ単品種を使って、長熟でバローロのようなワインを作りたい」と言います。一方、櫻山さんは「ヴェレゾンノートならではのセパージュ(ぶどう品種の組み合わせ)で、この土地だからこそできる新しい味わいのワインを作りたい」と夢を膨らませます。

2人のチャレンジの様子はWebサイトで見ることができます。サイトには中川さんが作曲した「ヴェレゾンノートのワインをイメージしたオリジナル曲」も紹介されています。
ワイン×音楽の時間をお楽しみいただきたいという2人の思いが感じられます。
HP:https://www.veraison-note.com

取材日:2022年8月12日

中川 裕次

千曲川ワインアカデミー2期生。長野県上田市で櫻山記子さんとともにVeraison-Noteブランドの特徴あるワインを次々とリリース。日本では珍しいぶどう品種であるネッビオーロの栽培にも挑戦し、長熟の赤ワインづくりを目指す。

(取材/文 ココプロジェ 宮下 ゆう子)