飛騨高山の通称で1年に約200万人(令和3年)の観光客が訪れる岐阜県高山市。2023年夏に、この地初めてのワイナリーが開業予定です。飛騨高山ワイン工房の石上寛さんと佳菜さんは、3年前から植栽を開始したワインぶどうの初収穫を今秋に控え、来年夏には初リリースと同時のワイナリー完成を計画しています。
Vol.14 石上 寛さん 佳菜さん
北海道出身の石上寛さんは千曲川ワインアカデミー(以下アカデミー)5期生。飛騨高山に移住したのは10年前でした。大学卒業後、大阪の会社で約10年間の勤務を経て、奥様の佳菜さんの出身地である高山市に移住しました。そのきっかけは3人の子供たちをより良い環境で育てたいと考えたことでした。それからの10年間、Eコマースの仕事をしましたが、「もっと地元に密着した仕事、地元に貢献する仕事をしたい」と考え、二人で出した結論がワインづくりでした。飛騨高山といえば観光と農業が主産業です。農業をやるとしたら、後発なりに独自性のあることをしたいと考えました。地元の仲間から聞いた「旅行者からワインはないのかと聞かれることが多い」という情報にも触れて二人の決意はかたまりました。
2019年アカデミー入学と同時に圃場を確保、翌年からぶどうの定植をスタートしました。これまでに植栽済みの品種はシャルドネ1,200本、ピノグリ800本、ソーヴィニヨンブラン1,000本、リースリング300本、ゲヴェルツトラミネール500本と、すべて白ぶどうです。その理由を石上さんに伺うと、「標高800m、豪雪地帯の高山ではワインぶどうの栽培実績がありません。そこで比較的栽培しやすいと言われている白ぶどうからのスタートとしました。」
飛騨高山の降水量は、4月-10月の栽培期間で約1,300~1,600mm程度と、東信地域の1.5〜2倍くらいの多さです。また、標高800mの圃場は「夏はしっかり暑く、日最高気温が30度をこえる年も多いが春秋の温度が低い」とのこと。東信地域の標高900mあたりに相当する気候だそうです。
当初石上さんは栽培が上手くいくのか不安を感じていましたが、勇気をくれたのはヴィラデストワイナリー小西超社長の言葉でした。
「人間がいてのテロワール、必ずしも気候的に恵まれない環境でも人間の工夫で乗り越えることはできます。」
石上さんはアカデミー在籍中ヴィラデストで修行をし、昼食時など小西社長とたくさんの会話をする時間が持てたことはとてもよかったと振り返ります。
石上さんご夫婦は栽培の合間を縫って北海道から秋田、山形、新潟、山梨そして長野などのワイングロワー訪問を重ね、温度が低い地域でのぶどう栽培、ワインづくりについての情報を収集しています。豪雪地帯ならではのワイヤーを上げ下げできる資材に関する情報も得られました。ヴィラデストでの修行の後、小西社長からの紹介でセイズファーム(富山県氷見市)の栽培醸造責任者田向俊さんの下で仕込みなどの “修行”を続けています。氷見市は高山市と栽培期間中の雨量が同じくらいで、参考になることが多いのだそうです。石上さんが目指すワインはヴィラデストやセイズファームでの経験を踏まえ、「きれいなワイン、そして和食に合うワイン」とのことでした。
高山市はインバウンド旅行客に人気の「昇龍道」(伊勢・名古屋から金沢・能登までの観光ルート)のほぼ中間点にあたります。多くの外国人ツアー客は名古屋セントレア空港から飛騨高山を経由して高山に到着するまでに日本食も日本酒も堪能してしまい、洋食が恋しくなってくるようで、それが前述の「ワインはないのか?」というリクエストの理由なのではないかと考えられています。神戸牛に引けを取らないクオリティでリーズナブルな価格の飛騨牛も国内外からの旅行者に人気であり、石上さんもいずれは飛騨牛の料理に合う赤ワインをつくる計画です。
現在圃場は約2.2ha。ワイン特区ではない高山市において醸造許可を得るために必要な「年8,000本」の生産に必要な広さです。石上さんは圃場とは別に3.2haの土地を借りて、その一角にワイナリー建設をすすめています。現在は図面や予算を詰めているところで、年内の着工を予定しています。ワイナリー予定地は高山市中心から車で約12分。廃業したレストランの施設が残っていることが魅力でした。この土地に小さい醸造所を建設し、試飲と軽食が取れる施設を併設して、いずれは宿泊もできる観光農園を作る計画です。
ワインツーリズムの新しい目的地の誕生が楽しみです。
石上さんのワインづくりはInstagramで見ることができます。
飛騨高山ワイン:https://www.instagram.com/hida_takayama_wine/
石上寛:https://www.instagram.com/ihiroshi/
取材日:2022年7月5日
千曲川ワインアカデミー5期生。2023年夏に、岐阜県高山市で初めてのワイナリー「飛騨高山ワイン工房」を開業するとともにワインの初リリースも予定。栽培品種はシャルドネ、ピノグリ、ソーヴィニヨンブランなど。将来的には飛騨牛に合う赤ワインの生産も目指す。