【生産者紹介】カラリアヴィンヤード 中村大祐さん(アカデミー1期生)
立科町で6年目の夏
【アカデミー受講翌年にぶどう収穫】
中村さんは2015年に千曲川ワインアカデミー(以後アカデミー)の1期生としてワインぶどうの栽培や醸造について初めて学びました。
その翌年2016年に初収穫、醸造、そして翌年にはファーストヴィンテージのリリースという異例のスケジュールを経験されました。これは立科町からシャルドネ500本が植えられた葡萄実験圃場0.25haを立科町から引き継ぐことになったためです。(写真①左端の区画)
「通常初収穫は苗を植えてから約4年後ですから、中村さんは幸運だったのではないでしょうか?」と伺うと、「引き継がせていただくまでにさまざまなことを考え、迷いに迷いました。最後はご縁を大切に、チャンスを活かそうと思いました。幸運かどうかは後になってみないとわかりませんが、当時の私には他の選択肢はありませんでした。」
【初リリース】
中村さんのワイン初リリースは、この圃場から収穫したぶどうから醸造した2タイプのシャルドネ「familia」と「opportunity」合計約1,200本でした。その後2018年2019年と同じラインナップをリリースしてきました。
「familia」(家族)アルカンヴィーニュにて樽発酵(酸味の中にほのかな甘味が感じられる辛口、繊細な和食にあいます):写真左
「opportunity」(機会)アルカンヴィーニュにてステンレス発酵(しっかりとした酸味が特徴、濃いめの食事にあいます):写真右
【オレンジワインを4年目にリリース】
そして4年目である2020年は新シリーズ「M」2019をリリース。
いわゆる“オレンジワイン“の2タイプでした。
ぶどう(シャルドネ)の果粒を果汁に浸漬(maceration)して発酵、その後木樽で熟成、濾過せずに瓶詰めしているので、瓶内熟成による味の変化も楽しめます。
2019年に設立されたたてしなップルワイナリーで醸造しました。
「M」(写真左)ブルー:フレンチオーク樽で8ヶ月熟成
「M」(写真右)グリーン:アメリカンオーク樽で5ヶ月熟成その間にMLF(Malo-Lactic Fermentation)しています。
「なぜ4回目のリリースを“オレンジワイン”にしたのですか?」「収穫できるぶどうがまだシャルドネだけだったため、既存の2種類にさらにバリエーションを加えて商品ラインナップを増やすことで、同じシャルドネから様々な味わいを楽しんでいただきたかったんです。」と中村さん。
カラリアのワイン販売サイト:http://trustassociates.co.jp/wine-product/
※MLF=Malo-Lactic Fermentation:乳酸菌の働きでワインに含まれるリンゴ酸が乳酸に変化する工程。主に赤ワインに行うが、シャルドネを樽発酵させる時にも行うことがある。尖った酸味がとれてまろやかになる。
【今後のリリース2020年ヴィンテージは少なめ】
2020年ヴィンテージはぶどうの病気で収穫量が少なく、今年の冬か来年春に約500本、オレンジワインに続いて、また違ったタイプのワイン、シャルドネで5種類目をリリースするそうです。
今年の秋の収穫分では、過去最大のリリースになる見込みです。
また2018年からメルロー、2019年からはカベルネフランを植えたので、2023年以降はシャルドネ以外のワインが初めてラインナップに加わります。
中村さんの畑は標高680mの丘陵地に位置し、冷涼な気候で寒暖差が大きく、雨が少なく風通しが良いため、病害が出にくく、品質のいいぶどうを栽培するのに適しています。
またほかの地域で問題となっている、獣害や鳥害、害虫も少ないようです。
恵まれているのは栽培環境だけでなく、中村さんの圃場周辺にはワインづくりの先輩方の存在です。
ぶどう栽培のみならず、ワインの醸造、販売などさまざまなアドバイスを受けています。
【都会の人に居心地のいい場所を提供したい】
ワインを愛する都会で生活している人たちに、農業などの体験を通じて仲間と交流でき、戻ってきたくなる居心地のいい場所を提供したいと考えました。
そこで2018年に宿泊施設「カラリアハウス」を自宅に併設、「カラリアアソシエイツ」という会員制度を立ち上げるとともに、東京と地元(ぶどう畑やカラリアハウス)とでイベントを実施しています。
コロナ禍で思ったように活動ができない状況が続いていますが、8月末には感染防止対策を図りながら、ワイン&チーズのイベントを「カラリアハウス」で予定しています。
「地元の人たちにこそ地元のワインを知ってなじんでもらいたい」と中村さんはおっしゃいます。
立科町には白樺高原など県内では軽井沢に次ぐ別荘地があり、リゾートホテルも多くあります。
しかし中村さんをはじめとするワイングロワーのヴィンヤードがある里地域とは、車で30分と離れています。
そのため別荘族や滞在者は観光施設の少ない里地域ではなく、別荘エリアで時間を過ごしたり、諏訪や八ヶ岳に行ってしまうケースが多いようです。
立科町では、すでにワイングロワーが10人以上となり、ワインをリリースしたグロワーも3人となりました。
立科町が今後ワイン産業への取り組みが本格化すると、首都圏からだけでなく周辺地域からも集客が見込まれます。
【6次産業化の課題】
地方創生の代表的施策である6次産業化ですが、その中でもワインづくりは典型的な産業です。
1次産業:ぶどう栽培×2次産業:ワイン醸造×3次産業:販売。
その中でも3次産業である販売/サービスは、ぶどう栽培で多くの時間を費やす生産者にとっては、大きな課題となっています。中村さんも、これからワインの生産量の増大が見込まれ、さらなる販売ルートの拡大を検討中とのことです。
中村さんは奥さまと子供たちが東京に居住し、スタートした当時は、東京と立科を頻繁に行き来し、二拠点居住をしていたそうです。
しかし、コロナ禍でそれもできなくなり、家族とも以前のようには会えない生活を強いられています。
コロナ禍が終息し、家族や仲間が「カラリアハウス」に自由に集えるまで、野外で音楽を聴くことができる設備やピザ窯、BBQ炉もその日を待っています。
中村さんがワインづくりを始めたきっかけやこれまでの活動は、「日本ワインなび」に詳しく紹介されていますので、ご覧ください。
https://japanwine-navi.com/2687
また中村さんの移住決断の理由などライフシフトについての記事です。
今検討中の方、悩んでいる方は参考になるかと思います。
http://www.lifeplan.or.jp/alps/alps_pdf/alps141/alps141_54.pdf
最後に「目指すワインはなんでしょうか?」とお聞きすると、「美味しいワインは、品質の良いぶどうからしか生まれません。まずは健全なぶどうを安定的に栽培できるようになることが先だと思います。目指すワインについてもいろいろと考えてはいますが、今の私には、それを語る前に多くの課題を克服することが先決です。」と、とても謙虚な応答でした。
中村さんの真摯な姿勢とチャレンジ精神から生まれるワインは、これからも楽しみです。