【移住者たちによる地域イノベーション】
《軽井沢周辺の新しい移住者たち》
新型コロナ禍が発生して、一年以上経過しました。
第三波の感染拡大に伴って出されていた二度目の緊急事態宣言は、3月21日に解除されました。
しかし世界規模で発生している変異株ウイルスは、徐々に国内でも感染拡大しており、依然予断を許さない状態が続いています。
ワクチン接種も、世界でワクチンの奪い合いが続いており、日本への供給も予定通り進むか分からない状況です。
ワクチン接種の開始とともに、アフターコロナ時代に向けての動きも活発になり始めています。
軽井沢町は定住人口20,000人余りのまちですが、町内には約17,000軒の別荘があり、軽井沢を訪れる旅行者も、コロナ禍前は年間800万人を超えるなど、定住人口に対する交流人口、関係人口の比率は、いずれも桁違いになる特異な町です。
そんな軽井沢で、移住者が急増するという変化が起きています。
隣りまちの御代田町も、軽井沢より地価が安いため、若い世代の移住が同じく増えています。
42歳の小園御代田町長自身が移住者であり、移住者ネットワークも形成されており、受け入れる町の体制も、年々充実してきております。
軽井沢や新幹線の佐久平駅にも近い地の利も、人気の秘密でしょう。
移住者が増える現象にはいくつかの要因があります。
ひとつ目は昨年4月に開校した、「軽井沢風越学園」に子弟を入れるための、子育て世代の家族ぐるみの移住です。
幼・小・中の混在校である同学園は、公教育のモデル校を目指しており、自然に恵まれた2万坪の敷地に校舎はあり、幼稚園は基本的にアウトドア学習を中心にしています。
小中学生は、子供が自ら課題を見つけ、チームで学習を進める課題解決型学習法「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」を本格導入しています。
学年も混在してチーム編成しています。
もちろん本学園の創立者で理事長の本城慎之介さんはじめスタッフの多くも移住者です。
保護者の中には、首都圏へ1時間の新幹線通勤者も多いですが、コロナ禍で、リモートワークをしている親も相当いるようです。
町内にはすでにリゾートテレワーク可能な施設が20ケ所できたと聞いています。
軽井沢プリンスホテルもワーケーションできる部屋を増やし、長期滞在プランをスタートさせました。
軽井沢には、すでに2014年ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンが、チェンジメーカーの育成を目的として、100名のファウンダー(発起人)の支援により設立されました。
日本で初めての全寮制国際高校です。
人びとや国や文化を結び、平和と持続可能な未来に貢献する、世界的国際教育機関ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)に2017年加盟しました。
ISAK設立やUWC加盟に尽力された代表理事の小林りんさんや校長のロデリック・ジェミソンさんはじめ教職員たちの多くは移住者です。
ふたつ目は、別荘やセカンドハウスを持ち、二地域居住者の軽井沢定住への移行です。
コロナ禍で、軽井沢滞在が長期化し、軽井沢定住に移行したシニア層が多いのが特徴です。
特に現役を退いたシニアは、感染リスクの高い大都会から、自然豊かな軽井沢中心のスローライフへ、各人のライフステージに応じたシフトが始まっています。
私も3回目の冬のシーズンを経験しましたが、地球温暖化の影響で、冬の寒さが年々緩和されているのも、定住を決断させているように思います。
三つ目は、コロナ禍で、新たな働き方としてのリモートワークを、政府も、企業も推進している点が大きいようです。
特にリモートワークが、ICTの情報インフラの整備と技術革新で、十分可能になった点が大きいでしょう。
千曲川ワイン倶楽部(CWC)の運営会も、昨年6月からZoomで隔週実施されており、東京に行く機会がなくなりました。
このようにワークスタイルの変革は、ライフスタイルの変容も伴っていきます。
子育てを地方で行う選択が、結果的に親のワークスタイルやライフスタイルをも変えていくことは、注目に値します。
そして移住者ネットワークもSNSで急速に拡大し、地域イノベーションの力になり始めています。
例えば4月より軽井沢町内の公立私立の小中高生の有志が、FM軽井沢で自主的な番組制作を行う、『メディアラボ』活動がスタートします。
このプロジェクトは、藤巻軽井沢町長、荻原教育長も後押ししており、学校の枠を超えた、生徒たちの融合で、まちの課題にチャレンジする、探究型学習のひとつとなります。
このプログラムを推進しているFM軽井沢の局長やチャーターたちも移住者です。
《千曲川ワインバレーの移住者たち》
千曲川ワインバレーイーストエリアの移住者たちの多くは、2015年に玉村豊男さんが開校した「千曲川ワインアカデミー」を卒業したワイングロワーやその家族たちです。
すでに7期生の入学者も決まり、対面学習や実習する正会員は26名、コロナ禍で新たにスタートするオンライン会員は38名となりました。
6期生が過去最高の36名だったので、一流の講師から栽培、醸造、ワイナリー経営を伝授してもらえる「千曲川ワインアカデミー」への関心は、ますます高まっています。
1期生から6期生までで卒業生は150名強。
千曲川流域で圃場を確保し、ブドウ栽培に入ったワイングロワーは50名近くまで増えました。
委託醸造でプライベートブランドワインをリリースする卒業生も20名を超えました。
長野県内外で、すでに9名がワイナリーを開設しています。
特に3期生までは講義が平日であったため、退路を絶って、ワイングロワーの道を目指す卒業生が多かったのですが、4期生以降は、講義が土日になったため、現役で平日働く人たちが多く受講しています。
アカデミー受講生は、ワイン産業に関わるワインスクールの講師や、ワインバー経営者、ワイン流通業者、レストラン経営者、さらに医師、教師、コンサルタント、ICT技術者、ベンチャー起業者など、経歴は実にさまざまです。
アカデミー卒業を機に、自らぶどう栽培し、ワインまでつくり、いずれはワイナリー開設を夢見るワイングロワー以外にも、次のライフステージに、ワイン産業関連サービスビジネスを志す卒業生が多くなりました。
彼ら彼女らのネットワークが、おそらくこの地でのワイン産業クラスターを、醸成していくものと期待しています。
『ニューライフスタイラー』は、玉村豊男さんの命名ですが、この地に根を張り、新しい時代を創造する次世代リーダーにどんどん成長していく姿は、本当に頼もしく思っています。
《地域イノベーションを担う移住者たち》
千曲川ワインバレーイーストエリアの中心となる小諸市、東御市には、ワイングロワー以外にも、空き家となった古民家を再生し、民泊やシェアーハウスを経営したり、ワインツーリズムのツアーコンダクターやツアーコンシェルジュを始める人たちも出てきました。
着地型ツアー企画会社を興し、軽井沢と千曲川ワインバレーイーストエリアをつなげるツアープランナー、ベーカリーやレストランを開業し、「千曲川ワインポータル」を実現したシェフやソムリエなど、本当にさまざまなキャリアを持った優れた人たちが、この地に移住してきており、まちや地域を変革する牽引役を担っています。
小諸市には、来春軽井沢蒸留酒社の小諸蒸溜所とビジターセンターが竣工します。
台湾のブランドウイスキー・カヴァラン社のマスターブレンダーを長く務め、国際コンクールでも数々の受賞歴のあるマスターブレンダー、イアン・チャン氏が、小諸市に移住。
2027年より世界にシングルモルトウイスキーをリリースし、生産量の60%を輸出するようです。
世界で大人気のジャパニーズウイスキーの産地になる日も近いでしょう。
小泉小諸市長が掲げた“選ばれるまち”「小諸版ウエルネスシティ」を具現化する、地域イノベーションの起爆剤に間違いなくなっていくでしょう。
併せてアフターコロナ時代に向けて、小泉市長が提唱する『ウエルネスサードプレイス』のコンセプトが、軽井沢町、御代田町、佐久市含めた千曲川ワインバレーイーストエリアに理解され、共有されることを期待したいと思います。
アルカンヴィーニュフォーラム
「千曲川ワイン倶楽部」
代表 小山 眞一