《テールドシエルとツイヂラボ》
今夏小諸市と東御市にふたつのワイナリーが誕生しました。
9月には、両ワイナリーとも果実酒製造免許を取得し、いよいよ今秋からワインづくりが始まりました。
両ワイナリーには、5つの共通点があります。
1.〈アカデミー卒業生〉
小諸市糠地の「テールドシエル」代表の池田岳雄さんは、アカデミー2期生であり、東御市湯楽里館で開業した「ツイヂラボ」は、千曲川ワイン倶楽部築地克己さんの奥さま勢津子さんが4期生です。
2.〈高標高ヴィンヤード〉
両ワイナリーのヴィンヤードは、千曲川右岸の標高が高いところ(850m〜930m)にあり、ソーヴィニヨン・ブランや、シャルドネには特徴があります。
池田さんの圃場は、平均標高930m、築地さんのシャルドネの畑は、標高850mのヴィラデストワイナリーのヴュニロンズリザーブのシャルドネの畑の隣です。
3.〈地域外からの醸造家〉
醸造家(ワインメーカー)は、テールドシエルは、栃木県足利市のココファームワイナリーで16年間栽培醸造経験を積まれた、池田さんのお嬢さまの配偶者である桒原(くわばら)一斗さん。
ワイナート造り手100にも選ばれました。
ツイヂラボは、南オーストラリアのアデレード近郊のワイナリーでワインづくりに励んでいる須賀さんです。
南半球オーストラリアと北半球の日本で、年二回ワインづくりをする醸造家です。
桒原さんと、須賀さんという地域外から千曲川ワインバレーにお迎えしたワインメーカーが醸すワインが、楽しみです。
4.〈小ロットの委託醸造受付〉
両ワイナリーとも、アカデミー卒業生のワイングロワーの小ロットの委託醸造を受け付けます。
アカデミー卒業生の栽培初期は、圃場も比較的小さく、ブドウの収穫量が少ないため、委託醸造でワインをつくりたくても、引き受けてくれるワイナリーが少ないのが、悩みの種です。
アカデミー生のゆりかごワイナリーであるアルカンヴィーニュは、近年はワイングロワーの増加とともに、委託件数が増えたため、最低1トンを委託醸造のミニマムに設定しています。
従ってアカデミーを卒業した発展途上のワイングロワーにとっては、両ワイナリーの存在は、今後大きな励みになります。
5.〈ワイナリー観光のハブ〉
両ワイナリーとも今後の小諸市、東御市のワイナリー観光の中核になります。
小諸市糠地地区は、47年の歴史を持ち、プレミアムワイン「ソラリスの里」として知られる、マンズワイン社小諸ワイナリーから車で10分と近く、同地区には、すでに8名のアカデミー卒業生のワイングロワーが存在します。
眺望はスケールが大きく素晴らしく、この度池田さんのワイナリーが開業したことで、小諸市にとっても、千曲川左岸の御牧ヶ原のジオヒルズワイナリーとともに、ワイナリー観光の戦略的拠点になりそうです。
一方ツイヂラボは、同じく眺望に恵まれた温泉施設「湯楽里館」の敷地内にあり、「おらほビール」で有名なブルワリーのとなりです。
昨年東御ビアー&ワインミュージアムも、湯楽里館内にできました。
新幹線上田駅からも湯楽里館行きの直通バスの運行が予定されるなど、ワイナリー観光のハブとなりそうです。
ヴィラデストやアルカンヴィーニュ、ドメーヌナカジマがある田沢ワイン村にも近く、湯楽里館からワイン村のワイナリーを周遊する電動カート(グリーンスローモビリティ)の、実証実験も計画されています。
千曲川流域での、ワインアカデミー卒業生のワイナリー数は、5つとなりました。
ヴィンヤードとワイナリーが集積する小諸市と東御市に、自社醸造のみならず、小ロットの委託醸造を引き受けるアカデミー卒業生のワイナリーが同時にできたことは、アカデミー開校以来5年経過して、ステージがひとつステップアップしたように感じます。
《品質向上への取り組み》
東地区のワイングロワーたちが、切磋琢磨することにより千曲川ワインの品質向上を実現し、プレミアムワインの銘醸地としての評価を高められるよう、オープンな環境を整備する必要があります。
それには、井の中の蛙にならず、世界水準を目指して、バックグランドやキャリアが異なるワイングロワーとの交流や、指導者によるリカレント教育の仕組みや基盤づくりも必要になるでしょう。
ブルゴーニュ委員会は、ブルゴーニュ全体のブランディングや品質管理、特に地球温暖化による異常気象の多発への対応、およびそのノウハウの蓄積、共有等、新たな課題解決へのチャレンジを続けています。
幸い東地区には、世界のワイン業界とのネットワークを持ち、本場フランスや有名ワイン産地に研修/留学した人材を保有する、大手メーカーのマンズワイン社、メルシャン社のプレミアムワインを産み出すワイナリーやヴィンヤードが存在します。
経験豊かな指導者の力を借りられる恵まれた環境があります。
ちなみに、小諸市にはマンズワイン小諸ワイナリーの武井工場長が主導する「小諸ワイン委員会」をはじめ、市内に在住する同社の醸造責任者やOBの栽培エキスパートが「小諸ワイングロワーズ倶楽部」として、22名のワイングロワーを指導し、研鑽を重ねています。
地域最大の購買力のある、軽井沢経済圏とのサプライチェーンを築くためには、千曲川ワインのクオリティへの追求は、不可欠となります。
身近にも、県内最大のスーパー「ツルヤ」が、軽井沢店で別荘族から鍛えられ、企業品質を高め、ブランディングに成功した事例があります。
千曲川ワインバレー特区連絡協議会を中心に、さらなる品質向上への取り組みを、本格化する時を迎えました。
アルカンヴィーニュフォーラム
「千曲川ワイン倶楽部」
代表 小山 眞一