この度の台風19号の豪雨と暴風により、被災された皆さまには心よりお見舞い申し上げます。
千曲川流域も甚大な被害に見舞われ、道路や交通機関も各地で分断されています。
被災地の1日も早い復旧をお祈りします。
千曲川流域のヴィンヤード/ワイナリーに関しては、左岸、右岸とも標高が高く、ワインぶどうの収穫や仕込みも後半を迎えており、大きな被害には至らなかったようです。
さて、今回は【『ウエルネスツーリズム』への動き】と題して、世界の潮流と、その中での千曲川ワインバレー東地区の近況、さらに展望についてお伝えしたいと思います。
~椀子ワイナリーの開業~
この秋は、上田市待望の丸子地区メルシャン社椀子ワイナリーが9月21日に開業しました。
2003年にメルシャン社がマリコヴィンヤードを開園してから16年、ワイナリーの設立は上田市の悲願でした。メルシャン社が属するキリングループは、グループCSV(Creating Shared Value)コミットメントとして、「健康」「地域社会」「環境」という3つの社会課題に率先して取り組むことを宣言しており、椀子ワイナリーのコンセプトは「地域との共生」です。メルシャン社は、近隣の上田市別所温泉および鹿教湯温泉を舞台として準備が進んでいた国際温泉会議G3T(後述)にも、強い関心を示し、参加を表明していました。
~「グローバルウエルネスサミット」とG3T@上田~
ウエルネス産業は、健康・医療のヘルスケア市場を含め、衣食住のライフスタイル産業、文化的活動、ウエルネスと環境など、あらゆる分野から参入が可能です。
特にツーリズム産業では、世界の名だたるホテルチェーンが「ウエルネス」を魅力的なキーワードとして新しいビジネスチャンスと捉え、ウエルネスを前面に打ち出したメニュー開発やサービスを提供し始めています。
世界のウエルネス産業は、実に470兆円市場という巨大市場で、年率6%伸長しているようです。
国内での成長が顕著なのは沖縄です。すでに海外旅行者数ではハワイを抜き去り、世界の富裕層向けである「ハレクラニ沖縄」をはじめ、五つ星ホテルが続々と建設されています。
こうした環境の変化の中、10月15日より3日間、アジアで初めてシンガポールにて「グローバルウエルネスサミット(以下GWS)」が開催され、60カ国600名が参加しました。
GWSの翌日18日より3日間、上田市でGWS温泉部会の国際温泉会議「Global Thermal Think Tank(G3T)」が開催される予定でした。
今回のサミットで共同議長を務めた、アジアでただ1人のGWSボードメンバーである相馬順子さんが、G3Tを日本に誘致し、上田市が受け入れに全面協力しました。
しかし、ご存知の通りGWS開催直前に巨大台風19号が東信地区を襲い、千曲川流域に甚大な被害をもたらしました。開催に向け半年前から準備を進めてきた上田市も、想定外の被害拡大により、断腸の思いで直前での開催中止を決定しました。
上田市は別所温泉や鹿教湯温泉含む丸子温泉郷をかかえ、昨今老舗温泉旅館の破綻や身売りが多発したため、新たな取り組みを迫られておりました。
上田市にとっては、国際温泉会議G3T開催で、世界の潮流となった「スパ&ウエルネス」のコンセプトを地域に導入し、新たな魅力ある癒しの滞在型保養地に転換する千載一遇のチャンスでした。
残念ながらG3T@上田開催は中止となりましたが、準備期間を通じて取り組みがスタートした上田市の温泉地復興と「スパ&ウエルネス」へのチャレンジは、今後も加速していくことが期待されます。
~信州の醸しの文化と癒しの文化の融合は、「ウエルネス」に直結~
ご承知の通り、信州は日本酒の蔵元約80社、ワイナリー54社、クラフトビール18社、味噌醤油約110社と、醸造所と称する施設が260社に及ぶ全国でも稀に見る“醸しの文化”県です。
温泉施設数も約200カ所と、北海道に次いで全国2位。「ウエルネス」のキラーコンテンツである温泉施設を豊富に持つ“癒しの文化”県でもあります。
こうした“醸しの文化”と“癒しの文化”の融合は、「ウエルネス」の世界に直結します。
信州はもとより豊かな自然、清浄な空気と水、歴史、伝統文化に恵まれています。
醸しは食や健康に直結し、癒しも温泉をはじめとする自然環境につながります。
~ウエルネスの定義とウエルネスツーリズム~
「ウエルネス」の最新の定義は、2015年「Global Wellness Institute : GWI 」(GWSの主催団体)が提唱する、《肉体的、精神的、そして社会的に健康で安心な状態》です。
上述したように、「ウエルネス」をテーマに、産官学連携で様々なプロジェクトが進む沖縄では、国立大学法人琉球大学に2018年国際地域創造学部ウエルネス研究分野が開設され、自治体とウエルネス、ウエルネスツーリズム開発の共同研究が進んでいます。
琉球大学の荒川雅志教授は、《身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして、輝く人生(QOL)をデザインしていく自己実現》として、『健康は基盤であり、ウエルネスは生き方』という新しいウエルネスの定義を提唱しています。
私もこの考えに同調します。何故なら千曲川ワインバレーを形成するワイングロワーの多くは、今までの生き方から、思い切ってライフスタイルを転換した『ニューライフスタイラー』だからです。
併せて荒川教授は、日本における『ウエルネスツーリズム』についても、四季折々の情緒と豊かな自然、世界有数の温泉資源、日本食、精神風土、伝統文化、長寿世界一の統計事実と知恵を、《ウエルネス資源》として再構成して提供すること、と表現し、心身のバランス調整を図り、新しい発見と自己開発、ふと立ち止まれて自分を見つめ直す「原点回帰」となる旅を、提唱しています。
千曲川ワインバレー東地区が保有する観光資源を集約した先は、それを構成する人びとも含めて『ウエルネス』に行き着くように思います。
長寿を誇る長野県の代名詞が「ウエルネス県」となれば本物といえるでしょう。
年間870万人が訪れる軽井沢では、最近、軽井沢観光協会が『ウエルネスリゾート』を標榜しており、国の働き方改革の一環で、新しい働き方(ワークスタイル)や生き方(ライフスタイル)のモデルとなる、〈コーワーキング〉や〈リゾートテレワーク〉にも積極的に取り組んでいます。
こうした時代の変化を捉え、軽井沢をゲートウエイにして、千曲川ワインバレー東地区が一体となって『ウエルネスツーリズム』に取り組めば、この地域が保有する《ウエルネス資源》を最大限生かした、世界に通じるJ-Wellnessが確立できると確信します。
アルカンヴィーニュフォーラム
「千曲川ワイン倶楽部」
代表 小山 眞一